発展途上臨床さいころじすとの航跡blog版 出生外傷(精神分析 臨床心理 心理療法)
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タイトルのドイツ語では、das trauma der geburtとなり、以前は出産外傷と訳されてもいた。しかし、これだと出産する母体が傷つくようなニュアンスがあるので、出生外傷の方が近い。出生外傷という言葉はあまりにも有名だけど、でも今までその訳本がなかったのは不思議に思える。短期療法の先駆けとなった反面、精神分析から破門されたという歴史があるからか。フェレンツィのように発禁扱いレベルかもしれない。

第1章ではフロイトの父親軽視を超えて、母親との関係重視を記している。この一つの原型が母親との分離、即ち出生であり、それが外傷になるとのこと。すると出生外傷は象徴レベルの話では分離不安となり、具象レベルでは身体言語を使い、出生外傷ということができるか。そして、この出生外傷が人間の根本のところにあり、それを明確に目的的に扱うことにより、治療を短期で終わらせることができるとランクは主張している。あまりにも有名な論点が既に1章から展開してる。

ランクは子どもの様々な不安は出生外傷の置き換えであるという。これらを遺伝的要因から説明することは不適切としている。子どもにとっての第1の外傷はもちろん出生である。第2の外傷は離乳、第3の外傷は去勢としている。

第2章では、母体回帰空想について論じられている。死ぬことも母体回帰であり、憧れとなる。一方でやはり死ぬことは恐怖の対象でもあるのは、出生における外傷の反復を惹起させるからかもしれない。「性的結合において頂点に達する性愛とは、母親と子どもとの間の原状況の部分的再建に向けた際立った試みだということが分かる」とランクは述べる。

第4章では、人間の様々な神経症症状や精神病症状の原型はほとんが出生外傷に行き当たるとしている。いずれもフロイト流の症状による象徴言語的な解釈から導き出されているようだが。1920年代という時代を感じさせる。

第5章。文化的営み、宗教的儀式、神話等はほとんどが母体回帰空想や出生外傷を象徴的に表したものであるとランクは述べる。ここでは日本の天皇制にまで言及されていた。ランクは宗教、文化、神話、芸術は出生状況のことが表現されているとしている。この出生状況をエディプス状況に変えるとフロイトと言っていることはさほど変わらない。そういう意味でランクの論点は二番煎じ的であり、正直あまりワクワクしない。第9章では、哲学のこれまでの歴史の中で、出生外傷を原点として、思索がなされてきたことを示している。さらに第10章では精神分析的思索の中に出生外傷の概念を入れ込もうとしている。そういう意味ではランクの野心が伺える。

ランクは原外傷である出生状況さえ分析的に扱えば良くて、その他のことを扱っても無意味であると言い切る。そして、「分析の期間中、転移とその解消の中で、出生外傷を反復させ、理解させること、そして分析家からの切り離しの際には患者に出生外傷を反復させないこと」が必要であるとのこと。

分析治療は開始当初から終結に向かって進んでいく。これはすなわち最初から分離、出生状況を目しているということのようである。その過程で先ほどのような出生状況や出生外傷を扱うことが必要であり、その他の例えばエディプス状況などは副次的なものであるとしている。そういう意味で体験重視もいうよりはかなり操作的な印象を受ける。

解題に進む。ランクは元々、ローゼンフェルトという姓だったとのこと。しかし、後に戯曲「人形の家」のランク医師から名前を取り、19歳でランクと名乗るようになった。そして、25歳の時に戸籍変更をしている。これは暴力的な父親との葛藤が背景にあるのだろう。そして、ランクのフロイトに対して熱烈な敬愛ぶりであった。その姿はカルト宗教的とも思えるほどのようだ。そこまで入れ込めるというのはある意味では羨ましい。

またランクの出生外傷の発案によって精神分析から離反していった、というのがよく聞く話である。しかし、実際には出生外傷という着想が精神分析には受け入れられなかったから、というだけではないようである。というのもフロイト自身が当初は全面的ではないとはいえ出生外傷を認めていたから。それよりもジョーンズやアブラハムなどの兄弟弟子との軋轢も大きかったようだ。

ランクはフロイト以後の流れである父親より母親、エディプスよりプレエディプスをいち早く重視していた。このことからラドニツキィという分析家は「ランクは実質的にクライニアンであった」とまで言っているようだ。


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