発展途上臨床さいころじすとの航跡blog版 グズほどなぜか忙しい!(精神分析 臨床心理 心理療法)
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 僕の知り合いが本を出版されました。それを献本して頂きましたので、感想などを書かせてもらいました。

 本書は一般向けに書かれた自己啓発本である。平易で簡単な書き方をしており、とても分かりやすいが、よく見かける単なる自己啓発本とは単に言えない内容である。巷でよく売れている自己啓発本では単にその著者の思い付きで適当なことが書かれていることが多い。しかし、本書は認知行動療法を専門とする臨床心理士によって書かれており、随所に臨床心理学や神経心理学の知見がちりばめられていることが分かる。すなわち、エビデンスに裏付けられた自己啓発本と言えよう。

 内容を見ていくと、まず何でも先延ばしにして、大切なことが何もできなくなってしまっている人を「グズ」という風に一言で表現している。この表現には是非があるかと思うが、うつ病・不安障害・パーソナリティ障害などの精神障害・精神疾患が想定されているようにも取れる。まず第1章を見ると、グズによる損として「心をなくす」「時間をなくす」「自尊心をなくす」の3つを挙げている。この「心をなくす」というのは本当にその通りで、心が豊かに余裕を持って送る人生とそうでない人生とでは雲泥の差があるかと思う。また、グズを性格ではなく、癖として捉えなおすことによって、過度に自分を責めさせず、改善・変化の可能性に期待を持たせるようにしており、著者の工夫や考えが見て取れるように思う。

 第2章では、グズ度のチェックということでいくつかの質問紙形式の心理テストが掲載されている。心理臨床の現場でもアセスメントは大切で、それによって援助の仕方も変わってくるのである。本書でもそれを取り入れているようである。しかし、その心理テストの内容については、おそらく著者が自ら作ったもので、妥当性や信頼性が確認されていないものではないかと想像する。測りたいものがきちんと測れているのかどうかが妥当性であり、何回施行しても同じ結果になるかどうかが信頼性である。臨床心理の人間が現場で使う心理テストのほとんどはこの妥当性と信頼性が確かめられているものを使っている。逆に言うとこれらが確かめられていない心理テストを使うことは倫理的に大きな問題となってくるのである。本書で掲載されている心理テストの妥当性と信頼性がどうなのかというのは大変疑問に思うところである。

 第3章では、グズの進化心理学的・神経心理学的な説明を行っている。ここも第2章と同じく、多分そういう知見が学術的にあるのだろうが、僕も知識不足の為、よく分からないとしか言えない。通常の論文や書籍であれば、必ず引用文献が載せられるのだが、本書のように一般人を対象にした自己啓発本ではそういうものは載せてもあまり意味がないので、載せられていないのだろう。

 第4章では、グズから抜け出すための7つの習慣を挙げている。7つの習慣というとベストセラーになった某本を思い出す。もしかしたらそれをパクリ・・・ではなく参考にしているのかもしれない。本書で挙げられている7つの習慣を見ると、一つ一つは他愛も無いもののように見えるが、認知行動療法のさまざまなスキルが背景理論となっていることが分かる。例えば習慣4では、正の強化・負の強化が応用されているだろうし、習慣5では、問題解決技法などのスキルが応用されているのかもしれない。

 第5章では、前章で挙げられた7つの習慣をきっちりと実行できるようになるためのコツが書かれている。特に根性論や気合で何とかなる問題ではないと本書では一刀両断し、科学的に習慣を継続するための方法が記載されているところが特徴である。本書でも書かれているように、特に日本では頑張れば何でもできる!といった根性論が好きだし、美徳とされている文化がある。部分的にはそういうところもあるだろうが、そういう論をもつことによって、できない原因・失敗した原因を容易にその人の人格に帰属させてしまうことになる。そのことによって、ますますできなくなるという悪循環も発生することを思えば、本書であるように科学的にきちんとした手続きの元で進めるほうが大変好ましい結果になるだろうと予想される。

 第6章では、それでもグズから脱出できない人の為に書かれている。本章では「究極のグズ」と銘打ち3つの症例が提示されている。もしかしたら身近にこういう人がいるかもしれないが。ここでは究極のグズを脱出するための方法が3つの処方箋として提示されている。ここでも随所に心理学や認知行動療法の知見が盛り込まれているようである。処方箋2の「報道レポーターになる」もユーモアを交えたセルフモニタリングと言える。心理療法の中でも認知行動療法ではセルフモニタリングを重視しており、自分自身の行動や思考をメモすることがほとんどの場合ホームワークとして出される。これは治療のターゲットを選んだり、改善を目に見える形で残しておいたりするだけではなく、自分を客観的に見られるようになるという治療的な効果もある。処方箋3では認知再構成法の応用であろうことが用いられている。最近ではポジティブシンキングという言葉がよく聞かれるようになってきており、肯定的・ポジティブに見ることによって元気になるというのが一般的な理解であろうと思われる。確かにそこまで問題が酷くなく、適応的に生活している人であれば、このようなポジティブシンキングである程度の問題は乗り越えられるのだろうと思う。しかし、困難を極めて、強いストレスに曝され、医療にかからねばならないぐらいになっている時には有害になってくることさえある。一部には認知行動療法はポシティブシンキングをする治療方法と思われているが、実はそうではなく、心身に不調をきたすほどの不合理で不適応的な思考で苦しめられているのであれば、思考の幅を広げて、合理的で適応的で現実的な思考を身につけようというものである。そこではネガティブな思考を捨て去るとか、ポジティブにだけなれば良いといった安易なものではないのである。本書に戻ると、本章ではないが、良いネガティブ思考・悪いポジティブ思考といった表現で、単なるポジティブシンキング以上の話を盛り込んでいるようで、その意味でも大変良心的な本であると言える。

 第7章では、「リバウンドさせないテクニック」ということで7つのテクニックを紹介している。ここは心理療法でいう所の再発防止に当たるのであろう。精神疾患・精神障害の場合、再発というのが大変多く、一度治っても、再び病気がぶり返すことがある。それを如何に食い止めるのかがずっと議論されてきた心理療法の大きなテーマである。本書でもそれにのっとっているのかどうかは分からないが、このような「リバウンド」という親しみやすい用語で再発防止について触れられている。ちなみにこのように心理学の難解な用語を一般の人にもすぐに理解してもらえるように言葉を工夫することが本書では多々見られている。実際の臨床でも著者はこのようにクライエントに分かりやすく説明しているのであろうと想像できる。

 最後に本書の構成であるが、7章の9つ目のテクニックが紹介されてすぐに奥付になっており、唐突に終ってしまった感じを僕は受けた。つまり、起承転結の「結」が不在であるとも言えよう。分量の問題などもあるのかもしれないが、「結」として、後書きや謝辞などを入れて、締めくくりをしていた方が後味が良かったかもしれない。



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