発展途上臨床さいころじすとの航跡blog版 早期不安に照らしてみたエディプス・コンプレックス(精神分析 臨床心理 心理療法)
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メラニー・クライン(著) 「早期不安に照らしてみたエディプス・コンプレックス」 1945年
メラニー・クライン著作集3巻 ”愛、罪そして償い” 誠信書房 pp157-218

 精神分析においてエディプス・コンプレックスの概念は重要で、学派や分析家によってその定義や用い方に多少の違いはあるが、いずれも臨床の中心に置かれることが多いようである。クラインも例外ではなく、エディプス・コンプレックスをどのように位置づけるのかによって理論を構築していっているのである。

 本論文では長い二つの症例を用いて論を構成している。ひとつはリチャード10歳であり、他の子どもに対して怖がり学校に行けず、ひきこもりを呈しているようである。また抑うつも強かったよう。ちなみに、リチャードの症例は児童分析の記録:メラニークライン著作集6巻と7巻で詳細に症例を提示しているようである。もうひとつはリタ2歳9ヶ月であり、不安・こらえ性のなさ・強迫・いたずら・気まぐれ食い・食欲不振・急に泣く、といった症状があった。リタについてはクライン著作集2巻:児童の精神分析にも掲載されている。

 これらの二つの症例からクラインは、フロイトとはまた違ったエディプス・コンプレックスを描き出している。フロイトのエディプス・コンプレックスでは、子どもはそれまで母親に対して向けていた愛情が父親の出現により禁止され、去勢不安を感じるようになる。その為、母親への愛情を撤去し、父親に同一化することにより不安を防衛する。その過程でエディプス・コンプレックスを克服し、結果的にエディプス・コンプレックスの名残として超自我を形成するというものである。反面、クラインのエディプス・コンプレックスでは、超自我はエディプス・コンプレックスの始まり以前から迫害的なものとして存在しており、それと同時に良いおっぱいと悪いおっぱいが両極端に分けられている状況である。それがエディプス・コンプレックスを通過することにより、超自我は適度なものへと変わり、良いおっぱいと悪いおっぱいが統合され、全体対象へと向かうようになるのである。もちろん、両者とも男児と女児では多少違うプロセスを経るようではあるが。

 クラインは初期には、「フロイトとの相違はなく、継承している」とフロイトに忠実であろうとしていたが、この論文ではフロイトに追従する文言はそれほどなく、独自の路線をひた走っていっている印象がある。本論文は1945年に書かれており、フロイトが死去してから6年が経過しているので、その影響もあるのかもしれない。

 エディプス・コンプレックスは100年前の古い理論であるのではなく、現代の臨床でも様々な局面において参考になる有力な武器であると私は思っている。というのも、もちろん症例によってその体験することや個性はさまざまで一つとして同じものはないのは当たり前のことである。しかし、そのストーリーをよくよく読み解いていくと、エディプス・コンプレックスにまつわる何かが見えてくるのである。言いかえるとエディプス・コンプレックスという理論を通すことによって、その人の個性が見えてくるのだ。このエディプス・コンプレックスをどのように体験し、どのように乗り越え、また挫折しているのかを見ることによって、その症例のことが見えてくるのだ。たとえプレエディパルの時期にとどまっている症例でも、エディプス・コンプレックスの不安が大きく退行しているのか、そもそもエディプス・コンプレックスに到達すらしてないのかでその理解は変わってくる。

 このようにエディプス・コンプレックスは臨床をする上で大変参考になるのであるが、それはエディプス・コンプレックスを盲信することではない。エディプス・コンプレックスを参照しつつ、それにどうしても当てはまらない時、それでは理解できない時、そこに気づくことが重要である。さまざまな素材を勝手に取捨選択し、無理やりにエディプス・コンプレックスに当てはめようとするのではなく、どうして違うのだろう?何が別なのだろう?ということに気づき、そこを考えていくことも大変重要なのである。いうなれば、素材の可能性に開かれた態度を持つことが臨床家としての重要な姿勢なのだと思う。

 さらに言えば、これらのことが患者からそのまま言葉として表現されることはあまりなく、たいていは行動や振る舞いといった形で、そして転移を通して表現されるのである。その為、患者の言葉の連想を聞くことも大切であるが、それ以上に雰囲気や行為、治療者が感じる情緒的体験に注意を向けることが大切なのである。


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