発展途上臨床さいころじすとの航跡blog版 愛、罪そして償い(精神分析 臨床心理 心理療法)
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メラニー・クライン(著) 「愛、罪そして償い」 1937年
メラニー・クライン著作集3巻 ”愛、罪そして償い” 誠信書房 pp75-122

 1936年に「文明化した男性と女性の情緒生活」というテーマで、ジョアン=リビエールと共に公開講演で話されたことを小冊子にまとめたのがこの論文である。クラインは知っての通り、攻撃性や破壊衝動、サディズムといったことを初期には強調していたが、この時期になると徐々に愛着や愛情といったことを理論の中に取り入れるようになっていた。その中でのこの論文であり、この論文のタイトルがメラニー・クライン著作集第3巻のタイトルにまでなっていることを考えると、大変重要な位置づけになっていることが予想できる。

 内容を簡単に要約すると、赤ん坊は初期には母親に対してサディズムを向けており、その反動として迫害不安を体験している。しかし、後に母親を破壊してしまったのかもしれないという不安や罪悪感を感じ、それを修復しようとする。それが償いである。このことを通して、他者に対する愛情や愛着を形成する、というのが主なところである。また、その償いの過程で、芸術などの諸々の活動における創造性も発揮されるとのことである。このためには、赤ん坊が自分自身との良い関係を築くことが重要という示唆もなされている。

 これらの主張はこれまでのクラインの理論に沿ったものであると同時に、後のウィニコットなどによる独立学派が強く反発したところでもある。独立学派といっても色んな理論家・臨床家がいるが、ウィニコットによると、赤ん坊はもともと万能的な満足感を感じている一次ナルシズムの状態にあり、攻撃性やそれに対する罪悪感、償いがあるという考えに反対している。クラインが正しいのか、ウィニコットが正しいのか、両方とも違うのか、両方とも正しいのか、それは全く判断がつかない。というのも、そもそも精神分析の理論は、その分析家と被分析者との間で交わされる空想から導き出されている。なので、その分析空間の中ではリアルなものであっても、一般化したり、客観化したりすると、リアルさが失われてしまうのである。

 話はズレたが、クラインのこの償いに関する理論が実際的にはどうなのかは分からないが、僕の臨床体験においても、患者は転移/逆転移の中で治療者である僕を傷つけているのではないかという不安を持つことはよくあり、それを如何にワークスルーしていくのかがテーマになることが多い。そしてその葛藤に耐えきれず、何らかのアクティングイン・アクティングアウトを起こすこともしばしばである。そこで、これらのことを現実問題として理解し、「そんなことないよ、僕は傷ついていないよ」などと諭しても、それはあまり意味がない。そのような傷つけてしまったのではないかという空想を患者が持つという体験や、そういう体験の由来そのものを一緒に探索し、解釈し、抱えていくことが何よりも患者のサポートになると僕は思っている。


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コメント
この記事へのコメント
>患者は転移/逆転移の中で治療者である僕を傷つけているのではないかという不安を持つことはよくあり

 こんなことばかり考えていると脳が作り出す心が概念に縛られて、あげくの果てには、患者の心を聞けなくなるかも?患者の言語下水準の体験的なものをばっさ、ばっさと切り刻んでしまわないようにお祈りいたします。
2009/08/09(日) 19:11 | URL | 法然上人 # - [ 編集する]

こんにちは、コメントありがとうございます。

まさしくおっしゃるとおり、言語にならない体験というのがとても大切ですね。そして、特に言語以前の水準、すなわちプレエディパルなものは行動や振る舞いといった形で表出されるようです。これらを理解する上で重要なのが、here and nowに現れる転移/逆転移であると思います。これらは情緒と強く結びついたものなので、転移/逆転移を扱わないということは、知的な理解に留まってしまう可能性があり、まさに「言語下水準の体験的なものをばっさ、ばっさと切り刻んでしま」うでしょうね。
2009/08/10(月) 01:36 | URL | ピュアリー # 6fwIY24o [ 編集する]

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