発展途上臨床さいころじすとの航跡blog版 心理療法・失敗例の臨床研究(精神分析 臨床心理 心理療法)
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 心理療法をしていると必ず失敗は起こるもので、失敗を経験したことがないという人は絶対にいないと思われる。しかし、学会発表や学術論文に掲載されるケースというのは、発表の許可をクライエントに取っている為、成功例ばかりとなり、失敗例が世に出ることはほとんどない。しかし、心理療法の研鑽を考えると成功例よりも失敗例から学ぶことは多いであろう。そういう観点からすると、このような書籍が世に出るということは後進のものからすると大変にありがたいと心から思うところである。

 本書では、まず第1部で失敗の定義や位置づけをしたのちに、先行研究のレビューを広く深くおこなっている。心理療法の研究では個々のケースが大変ユニークなので、マスの研究がしにくいという特徴を持っているが、それでもこのようにたくさんの効果研究がなされているのは意外と驚かされた。簡単にそのまとめを書くが、心理療法を数回でドロップアウトする率は約40~60%で、悪化は10~30%であるとのことである。こうしてみると意外と多いように思うが、心理療法を受けなかった人に比べて、受けた人では約80%が改善しているという報告もあった。

 しかし、本書でも書かれていたが、失敗したからすべてダメというよりも、失敗をどのように取り返すのかという作業をセラピストとクライエントの間で行うことにより、それが治療的に働くということも大いにありうる話である。また、セラピストとクライエントのミスマッチによるドロップアウトがあったとしても、その後別のセラピストにリファーでき、そこで心理療法の効果があれば、それは大きな視点から言うと失敗とはならないのかもしれない。このように失敗が直ちにダメということにはならず、文脈の中で理解して行かないといけないというのはその通りであろうと思われる。

 第2部では、色々な創作ケースを用いて、実際の面接の中でどのように失敗が表れるのかを詳細に説明されていた。マクロな失敗からミクロな失敗までさまざまであり、自分にも体験したことのあるものも多くあり、これまでの臨床を振り返ってしまうこともあった。しかし、第1部では先行研究のレビューを詳細に行い、論述の根拠を明確に示していたのだが、第2部では創作ケースの羅列が多く、調査や実験から得られたデータを根拠にしての論述ではなかった。この辺り、もう少し実際に著者が行った研究を持ってきても面白かったのではないかと思う。

 また、本書の全体的なものであるが、学派や理論を越えて、統合的・折衷的な視点から失敗について扱っており、それはそれで構わないと思う。そうすることによってより包括的に心理療法というものを浮き彫りにできるのだろうから。しかし、僕は精神分析をオリエンテーションとしているからそう思うのかもしれないが、転移や逆転移、抵抗といった分析用語の使い方やその定義、現代的な意味についてはかなり間違っているところが散見された。たとえば、「失敗しないために逆転移を起こらないように精神分析はしている」といった記述などもあったが、逆転移を起こらないようにすることなんてできないし、常にあって当たり前のものなのである。そして、逆転移を通して転移を理解し、ひいてはクライエントを理解していくのが精神分析である。なので、逆転移が起こらないと何もできないのである。もしくは「逆転移が起こらない」という逆転移が起こっているのである。この辺りについては、著者も精神分析が専門ではないということだし、すべての学派の中間地点を取るために、仕方のないところなのかもしれない。もしかしたら、他の学派から見たら、また用語の使い方が間違っている!といった指摘が出てくるのかもしれない。

 また、失敗にはセラピストに見えない失敗、気付かない失敗というものもたくさん挙げられていた。そう思うと、実際の自分の臨床でも起こっているということだろうから、心理療法をすることがちょっと怖い気持ちにもなってしまうところもあった。「大丈夫か?大丈夫か?」と少し自分自身に注意が向いてしまい、クライエントに注意が向けられなくなったら元も子もないなと思うが。

 そのような些細なところはさておき、全体的には失敗について網羅的に論述されており、さらに、様々な視点が用意されているので、読んでいると色々とこちら側の空想や連想が刺激され、身を入れながら没頭してしまうことが多かった。それだけ大変刺激的な内容となっているということかもしれない。特に「研究会や学会ではケース発表者がフロアから失敗を責められ、委縮し、トラウマになってしまう」といったところは本当によく分かるような気がする。自分自身がフロアから発言する時には気をつけていきたいところである。


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コメント
この記事へのコメント
今日神田の古本屋街に、おいてあり、ゲットしました!!

じっくり見ようと思います。(^o^)/
2009/04/28(火) 22:48 | URL | きゅう # f3w0QkJ. [ 編集する]

微妙に高いので、古本でゲットできるとは羨ましい~♪
2009/04/29(水) 00:02 | URL | ピュアリー # 6fwIY24o [ 編集する]

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