発展途上臨床さいころじすとの航跡blog版 (精神分析 臨床心理 心理療法)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


【続きを読む】
本書は訳者あとがきにもあるように、精神分析に方向づけられた精神療法をこれから学ぶ人のために書かれたテキストである。元々は精神科レジデントが精神療法を学ぶ上でのテキストであったが、それに限らずさまざまな職・資格において精神療法を学ぶ人にも有用なものである。そのため、かなり基本的なことを明確に、かつ分かりやすく記載されており、初学者にとって取っ掛かりの良い本であると思われる。

第1章では、精神分析についての実証的研究が紹介されている。最近の心理療法の方向性としてエビデンスベースドが謳われることが多く、その代表格が認知行動療法である。その中で精神分析はその方向性からは一時期において否定的に、批判的にとらえられることが多かったようである。そうなっていたのが、エビデンスベーストにおける効果判定の基準や尺度と、精神分析の目的のズレがあり、研究の立ち遅れに繋がっていたことが大きな原因であったかもしれない。しかし、本書では、これまで行われた精神分析に関するランダム化比較対照試験・メタ分析・系統的レビューなどの効果研究を多数掲載しており、精神分析のエビデンスについて目から鱗が落ちる体験である。特に予後の研究では、精神療法終了後も他の精神療法よりも有意に良くなっている研究などもあり、大いに勇気づけられるものである。

第2章以降は、基本的な技法・技術的なことが具体的に書かれている。例えば、患者から贈り物を贈られたらどうするか?恋愛転移が発展したらどうするか?逆転移をどう処理するのか?等々である。トリッキーで、職人芸的で、達人でしかできないことではなく、通常の一般的な治療者の知識と技量があれば使用できるような方法が書かれているように思う。職人芸も身に着けたいという欲望はあるかもしれないが、普通の治療者が普通にできることを地道に行っていくことも大事なのであろう。

そして、本書が現代的な精神分析に立脚していることを伺わせる一つとして、メンタライゼーションの概念が多数使用されていることである。ケースフォーミュレーションから、治療技法、治療目標まで、さまざまな箇所でメンタライゼーションが散見される。日本ではこれらの概念はようやく紹介され始めたぐらいのところなので、いまいちその位置づけが分かりにくいように思うが、米国では当たり前のように使われているようである。

第10章ではスーパービジョンについてまとめられている。スーパービジョンは臨床能力を向上させるためにほぼ必須のシステムであるが、色々と問題点も多いのである。それはスーパーバイザーとスーパーバイジーとの関係である。時に治療関係のような力動・転移も発展してしまうことがあり、それが二人の関係を破壊してしまうこともある。そこまでではなくても、建設的なスーパービジョンにならないことも多々あるかもしれない。そうした時、ここが本書の面白さでもあるのだが、「スーパーバイザー」がどのような問題をもっており、どのような問題的なことをしているのかを紹介し、そして、そうしたスーパーバイザーに「スーパーバイジー」がどのように対処するのか?というノウハウについて多数記載されている。例えば、スーパーバイザーが眠たそうにしている時、や、権威主義的なスーパーバイザー、境界の無いスーパーバイザー、等々である。もしかしたらそういうスーパーバイザーに出会った人もいるだろうし、泣き寝入りしたり、そういうものだと諦めてしまった人もいるかもしれない。そうしたことを乗り越える工夫も本章では紹介されているので、読まれると参考になるかもしれない。

最後に本書のタイトルにもあるように、この本にはDVDがついており、全部で3つの素材、合計23分と短いものであるが、実際の精神療法の様子を録画したものが付属している。どれもギャバード自身がセラピストとして出演している。そして、クライエントは俳優・女優が実際の患者の言動を演技しているのだが、結構リアリティがあり、面白い。一つ目は性愛転移を示すの女性、二つ目は受動的攻撃という抵抗を示す男性、三つ目はスプリットを起こす境界パーソナリティ障害の女性である。それぞれ、患者に配慮しつつ、出てきた素材を用いて、精神療法を進めていく様はなかなかのものである。ただ、対面による精神療法であり、どちらかというと教育的・支持的・説得的な形態の介入のように見え、知的なやりとりであると言えなくもないかもしれない。ズバっと直球で解釈だけをする、というクラシックな分析技法よりも、実際臨床においてカウンセリングの延長的に使えるマイルドなやり方である。つまり、初心者があまり違和感を持たずに使用できるような感じである。良い-悪いの価値判断ではなく、こうしたことが精神療法を学ぶ上で重要であることには違いないのかもしれない。

また、DVDについて、訳者である池田先生( @osake_kushami )が、映像に出てくる治療者と患者についてTwitterでつぶやいていたことがある。他の方のつぶやきで、治療者と患者の距離が近いのではないかという指摘に対して、池田先生は「実際の臨床ではもう少し離れているだろうが、撮影をする都合上、近くの席に座らないと同時に表情を映せないからではないか」というような内容をつぶやいていた。確かに近いというのは私も思っていたことであり、米国ではそういうものかと思っていたが、撮影上の都合であったということで納得ができるところであった。そうした情報も加味してDVDを見ると良いのかもしれない。

本書はDVDがついている関係で、多少は値段も高いが、高いだけの価値はあるものと私は思っている。



【続きを読む】
日本臨床心理士会の委員会関係で必要となり、読んだ本。自殺対策基本法の解説から、実際の運用についてまで総合的に解説している。

自殺は個人の自由意思によるものではないとし、心理的・経済的・医学的・社会的な問題が複合的に絡んだ末のものであり、単一の要因によって引き起こされるものではないとするWHOの見解を取り入れられている。さらに、自殺を「死ななくても良い死」「防ぐことのできる死」であるとして、社会的な整備を整えていくことにより、防ぎうるものであるとしている。

これまでの自殺対策といえば、精神医学的な観点からによるものが多く、うつ病や統合失調症の早期発見/早期対応に基づいた対応がメインであった。しかし、昨今の不景気の影響もあるかもしれないが、多重債務などの心理的な要因以外の要因も同時に取り組む必要が出てくるようになってきているようである。そのため、臨床心理士や精神科医だけではなく、さまざまな専門家と連携をしながら事に当たる必要があるのかもしれない。

本書は何らかの立場や学派に偏らず、自殺対策についての一般的で基礎的で、すべてに共有できるように作られており、基本を学ぶのには大変良いものである。


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。